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【後半】「臓器移植について知ることが大きな一歩になる」臓器移植コーディネーター芦刈 淳太郎さんが目指す理想の社会の姿

『芦刈淳太郎さんは、公益社団法人 日本臓器移植ネットワークに所属し、臓器移植コーディネーターとして、臓器移植の最前線での活動を続けてきました。今回は芦刈さんに、日本の臓器移植の現状や、今後目指すべき社会の姿について、お話しいただきました。前半に続き、今回はインタビュー後半です。』



全ての臓器移植が必要な人を救えているわけではない


― 日本では、臓器移植法が成立してまもなく30年になりますが、日本における臓器移植の現状はいかがでしょうか?


外国と比較すると、まだまだ日本の臓器提供数は少ないと言えます。


例えばアメリカでは、脳死になった人の臓器提供について、必ず意向を家族に確認することが制度として定着しています。そのため、臓器提供数もその分多くなります。しかし日本では必ずしも同様の対応がされるわけではありません。


また韓国もアメリカと同様に、脳死の人の臓器提供の意向が必ず確認されており、なんと人口当たりの臓器提供数は日本の10倍とも言われています。


日本では、確認するかどうかは病院の判断に任されており、さらに家族側から申し出ることも少ないことが1つの要因となっています。


― 海外と日本とでは、まだ大きな差があるのですね。


日本の臓器移植に関する課題としては、いくつか考えられるものがあります。

 

まず日本では、脳死の人への意向確認が明確に制度化されていないことが挙げられます。それ以外にも、臓器提供の対応ができる人員や搬送手段、そして施設の体制が十分でないという、環境面の課題もあります。

 

また、大半の人が、臓器移植は身近な事と捉えていなかったり、そもそも臓器移植について全く意識をしていなかったりします。一人ひとりの移植医療への意識や理解にも違いがあるといわれています。そのため、自発的に臓器提供の意思を表示する人自体が、1割程度にとどまってしまっています。

 

さらに海外と日本だけではなく、日本国内でも地域差が生まれています。臓器移植ができる施設がない地域に住んでいる人が心臓移植をする場合、一時的に都市部への居住が求められることもあります。このように解決するべき課題は、まだまだ少なくはありません。


― ここまで臓器移植全般のことをお伺いしてきましたが、日本の心臓移植についても現状を教えてください。


年々、ご提供自体は増えてきていますが、待機中に亡くなってしまう患者さんも一定数いるというのが、日本の心臓移植の厳しい現状です。


現時点での、心臓移植までの平均待機期間は約1,300日とされており、多くの患者さんが補助人工心臓をつけてその日数を過ごしています。


心臓移植の実施件数が増えるとともに、新規で登録する患者さんも増え続けています。さらには子供の患者数も年々増加しており、18歳未満の登録者は100人弱います。


― 18歳未満の子供を取り巻く心臓移植の環境というのも、同様に厳しい状況なのでしょうか?


残念ながら、心臓移植の実施の増加数は、登録者の増加スピードには追いつけていません。



小児の心臓移植数が伸び悩んでいる要因としては、日本国内の臓器移植数が増加しない要因と同様に、制度面と環境面のそれぞれが挙げられます。特に制度面に関しては対象者が子供となるため、虐待の防止などへの対応など、慎重なアプローチが必要なポイントがいくつかあります。15歳未満の知的障害などを一律に除外せず意思を尊重されるような制度に改正されましたので、一歩進んだと思います。


より多くの心臓病を抱えた子どもを救うためにも、慎重かつ迅速な制度設計が今後必要になってくるでしょう。



現実を知ることが、課題解決のきっかけになる


― 社会への啓発活動が重要というお話がありましたが、どういった啓発活動を行っていますか?


私が所属するJOTでは、国民への臓器移植に関する啓発活動として、日本各地で順番に臓器移植推進国民大会を開催しています。


国民大会では、国民の方に移植医療の理解を深めていただくために、医療関係者や臓器提供ご家族や移植者、開催地の学生さんなどにご参加いただき、臓器移植の基本的な情報に加えて、臓器提供ご家族や移植者の想いなどをお伝えしています。また国民に広く、臓器移植の情報を届けるため、わかりやすくまとめたWebサイトの運営やリーフレットの制作・配布もしています。


身近なところでは、健康保険証、運転免許証、マイナンバーカードには臓器提供意思表示欄があることをご存知でしょうか。これらを取得するときや更新するときにも窓口などで広く情報をお伝えできるようにしています。


さらには、子供達に向けて臓器移植医療の理解を深めていただくために、教育機関への支援として資料の配布や講師の派遣も無償で行っています。



― 様々な活動に注力されているのですね。臓器移植を取り巻く環境を改善するために、国民である我々はどういったことを意識するべきでしょうか?


第一に関心を持つことが重要です。臓器提供は、他者が強制できることではありません。関心を持ち、自発的な行動に繋げていただきたいと思います。


例えば、免許証に臓器提供するか、しないかの意思を記載することや、家族に対して自分の意思を共有するなど、世代にかかわらず、できることは少なくありません。ぜひ行動に移してほしいと思います。


― 最後に、芦刈さんが今後目指す理想の社会の姿を教えてください。


将来的には、臓器提供や移植が今よりも一般的なものとなり、誰もが必要な時に適切な治療を受けられる社会を目指しています。


もちろん、臓器提供を行う側の権利を尊重し、移植を受ける権利も確立されることが理想です。そもそもの日本の医療技術は世界でも非常に高い水準です。その技術を最大限に活用し、多くの命を救うことができるようにしたいと思います。


また、海外渡航移植に頼らないような仕組みを整えることも重要です。日本国内で臓器移植を受けられる体制を強化し、患者さんが安心して治療を受けられるようにすることを目指しています。



― 海外から学ぶことが必要不可欠ではあるけど、頼り続けてはいけないということですね。


その通りです。現在、日本では臓器移植が特別な治療として認識されていますが、将来的にはもっと身近な治療法として受け入れられるようになることを期待しています。


臓器提供や移植についての理解が深まり、多くの命が救われる社会を目指して、引き続き努力してまいります。



インタビューを終えて

今回のインタビューを通して、日本と海外の臓器移植の違いがわかり、日本は制度面、環境面においての臓器移植の難しさがわかりました。


一方で移植件数はコロナ禍では下がっていましたが、2023年は件数が増え、2024年も増加傾向と知れて、明るい兆しがみえました。


お話の中で特に印象的だったのが自発的に臓器提供の意思表示をする人自体が1割程度にとどまっているということです。


この自発的に臓器提供の意思表示をする人自体が増えていく日本社会が作れれば、日本の臓器移植数もどんどん増えると感じました。


臓器提供の意思表示をする、しない、意思表示をした人が臓器提供を希望する、しないはそれぞれ個人の自由ですが、私としては多くの人に意思表示をして頂き、そのうえで臓器提供を希望して頂きたいと強く感じました。



インタビュアー 秋山 典男

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